海神記 諸星大二郎著(光文社コミック叢書“シグナル” 6)

海神記表紙 歴史

前回、高田崇文著QEDシリーズの最新刊「憂曇華の時」を紹介しました。そこで書きましたがMARCYは、隠された歴史や、まつろわぬもの、滅ぼされたもの、虐げられたものの歴史に、共感を覚えます。

勝者が書いた歴史の裏にひそむ真の歴史とは何か?興味深いですよね。「憂曇華の時」を読むと安曇氏が取り上げられていましたので、そこからの連想で久々に、諸星大二郎先生の「海神記」を再読しました。

今回は、MARCYがリスペクトする諸星大二郎先生の傑作マンガ「海神記」を紹介しますね。現在、手に入る「海神記」は光文社コミック叢書版で上下巻の構成です。MARCYが持っているのは、潮出版社版で、3分冊の物なのですが、これは絶阪になっていて中古でしか入手できないようです。

海神記 諸星大二郎著(光文社コミック叢書“シグナル” 6)

諸星先生の絵は独特のもので、絵だけで言うとかなり好き嫌いがわかれると思います。MARCY自身ははほとんど愛していると言っていいほどのファンなんですが、実はこの「海神記」には特別な思い入れがあります。

2003年のことだったと思いますが、そのころMARCYはあるCGプロダクションで営業の責任者をしていました。以前にCG映像を納品した北九州の展示施設で、関門海峡をテーマにした映像コンテンツのコンペに参加しないかという打診が来たのです。

MARCYは舞い上がりましたね。

これはもう絶対に諸星先生の「海神記」をネタにするしかないぞ!!

まあ勝手な思い込みなのですが、社内稟議もそこそこに、出版元の潮出版に即電話。

かくかくしかじかで諸星先生にお会いしたいのですが・・・

担当の方の返事は、「諸星先生はすごく人見知りをする方なので、会うのは難しいと思いますよ。まあ、一応連絡はしてみますが期待はしないで下さいね。」というつれないものでした。

うわあ、これは駄目かな?とあきらめていたんですけど、3日後に潮出版社から電話を頂きました。

いや、まさかと思ったんですけど諸星先生会ってくれるそうですよ!!良かったですね、ほんとこんなことめずらしいんですよ、あの諸星先生が知らない人の面会を最初からOKするなんて。

もうMARCYは完全に有頂天で、教えていただいた諸星先生のご自宅に電話してアポをもらい、天にものぼる気持ちで上京しました。

そして実際にお会いした諸星先生は、本当に優しい方でしたね。北九州のコンペに海神記で挑みたいこと、映像の尺の関係で短縮版のシナリオを先生に書いて欲しいこと、ただしコンペなので採択は約束されたものではなくて先生にお支払するギャラはないこと・・・

まあ若気の至りとはいえ、またあこがれの諸星先生に会えた興奮状態にあったとはいえ、ほんとうにあつかましいにもほどがある話ですよね。今考えると冷や汗ものです。

その時の諸星先生は、ほんの少し困った顔をされてから微笑んで

お金はいらないけれど、いくつか締切があるからなあ、シナリオ何枚くらいでいつまでに書けばいいの?

と言ってくれたんですよ!!信じられますか?
沖縄のド田舎からでてきた一見さんの零細CGプロダクションの若造の、あつかましいお願いを嫌な顔一つせずに快諾してくれたんです。

諸星先生と言えば、寡作家で爆発的なヒット作こそありませんが、熱狂的なファン層をもつ漫画家です。「西遊妖猿伝」で2000年の手塚治虫文化賞マンガ大賞も受賞されていた押しも押されもせぬ、ベテラン作家でした。

いや~、MARCYのその時のうれしさは言葉には出来ないほどでしたね、思わず涙ぐんでしまうほど感激しました。

先生は3日でシナリオを書いてくださり、更にコンペのプレゼンで必要ならとなんと原画のコピーを許可してくださいました。震える手でキンコーズでコピーしたことを昨日のことのように思い出します。MARCYの宝物です。

諸星先生原画

また、海神記の第1巻裏表紙にサインも頂きました。

諸星先生サイン

えっ?コンペの結果はどうだったかって。自信満々で臨んだプレゼンは・・・不採択でした。まったく諸星先生にあわせる顔もないほどの結末ですが、先生は笑って許してくださいました。まったく信じられないほどやさしい方ですよね。

不本意な結果にコンペが終わり、先生の期待にも沿えなかったのですが、この時触れたお人柄で、ますますMARCYは先生の熱烈なファンとなったんです。

ふう、ごめんなさい。諸星先生の話になるとつい熱くなってしまって、「海神記」の紹介がまだでした。

海神記は一言でいうと諸星版の神武東征記です。4世紀の九州で天候不順や火山の噴火で、漁場をめぐる海人たちの争いがおこります。そこに現れた海神の御子であるミケツと巫女のオキタラシ。

ミケツがむじゃきに唱えた「常世へ行こうよ。」というスローガンが、安曇氏をはじめとする海人の諸部族と、百済の亡命将軍たちの思惑も複雑に絡みながら、大きなうねりとなって時代を動かし始めます。

神がまだ人の身近にいた時代、神と神との呪術的な戦いが人とともに戦われた時代。諸星先生の迫力ある絵でリアルに描かれるのです。残念ながら「海神記」は未完で終わっているのですが、MARCYをはじめとするファンはみんな続編を首を長くして待っていますよ。

諸星先生と言えば「妖怪ハンターシリーズ」や「マッドメン」シリーズ、そして手塚治虫文化賞マンガ大賞に輝いた「西遊妖猿伝」など、伝奇的なあるいはホラー色の強い作風から、とっつきにくいなと感じる方もいると思います。

そういう方の諸星大二郎入門編としても「海神記」は自信をもってお薦めします。もちろん諸星流の設定のフィクションであるとはいえ、ある意味、記紀の史実にそくした歴史ドラマであり、怪力乱神の話ではないですからね。

本作で諸星作品に触れた方は、ぜひ諸星先生の本領である伝奇マンガにも挑戦してみることをお薦めします。歴史や民俗学、また民話や伝説などの深い知識と卓抜なアイディアから生み出される作品群に魅了されること間違いなしです。MARCYが自信をもってお薦めしますよ。

先ずは日本の神話や説話にかくされた真実を探求する考古学者、稗田礼次郎が主人公の「妖怪ハンター」シリーズはいかがでしょう。かなり前ですが沢田研二主演で映画化もされた作品です。集英社文庫で全3巻で出ています。

また諸星先生が唯一、少女向け雑誌「ネムキ」に連載した「栞と紙魚子」シリーズは、ギャグ満載の優しいホラーマンガです。こちらもチェックしてみてくださいね。

「栞と紙魚子 新装版」

「栞と紙魚子」はかなり前に実写のテレビドラマにもなり、栞役を南沢奈央、紙魚子役を前田敦子が演じていました。

こちらはDVDにもなっていますので、興味のある方はどうぞ。MARCYは諸星先生の作品はほぼ全部読んでいて、機会があればまたご紹介しようと思っています。

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