こんばんわMARCYです。今日は「MARCYの自分史BLOG」第10回をアップしたので、乱読日誌を書く予定はなかったのですが、室積光さんの「遠い約束」を一気に読み通してしまいました。そしてその感動をぜひ伝えたいと思いましたので、ご紹介していきます。
この「MARCYの乱読日誌」で室積光さんの小説の紹介は「都立水商1年A組」と「史上最強の内閣」に続く3作目となります。室積光さんはMARCYの大好きな作家のひとりで、またその作品もとても幅が広い作家だと思います。
都立水商シリーズや史上最強の内閣シリーズに代表される、読んでいて「嘘だ!!こんなの!!」と叫びそうになるとんでもない虚構の物語から、旧制高校のリアリティに溢れる物語「記念試合」まで、その作風は一つのジャンルに留まりません。
「記念試合」は小説も感動必至ですが、今はなき三國連太郎さんが主演した映画「北辰斜にさすところ」も素晴らしかったですね。未見の方はぜひご覧ください。予告編はこちら。
そして今回ご紹介する「遠い約束」は室積さんが舞台劇として執筆した台本のノベライズです。MARCYは不勉強でこの舞台劇の存在を知りませんでしたが、小説になった「遠い約束」は「記念試合」にも相通ずる作者の戦争への反省と平和への想いが詰まった短編です。
ページ数も160ページと短く室積さんらしい読みやすい平易な文章で、一気読みも苦になりません。MARCYはチャンスがあれば舞台をぜひ見てみたいと思いました。それでは、ご紹介していきますね。
目次
室積光さんの略歴(「遠い約束」カバーより抜粋して引用)
1955年山口県光市生まれ。本名の福田勝洋名義で、俳優としてテレビ・映画に多数出演、また劇団「東京地下鉄劇場」を主宰し劇作家としても活躍。2001年「都立水商!」で作家デビュー。同作はコミック化・ドラマ化もされヒット作となる。著書に「史上最強の内閣」「史上最強の大臣」「ドスコイ警備保障」「埋蔵金発掘課長」「ツボ押しの達人」など多数。
「遠い約束」のあらすじ(ネタバレなし)
昭和58年4月10日、桜山小学校では「学校創立百周年記念式典」が催されます。学校出身の著名な作家、林健一先生が来賓として招待され、桜山町役場職員の松田俊一郎が、林先生のお世話をすることになりました。
林先生は、俊一郎に校門を入ってすぐの場所にある桜の大木の根元を掘ることを依頼します。先生の要望をいぶかりながらも俊一郎が掘った穴の中から出てきたのは、ひどく錆びついた頑丈な金属製の缶でした。
俊一郎の手から缶を受け取った林先生の眼から涙が・・・その缶は林先生が50年前に同級生4人と一緒に埋めたタイムカプセルだったのです。式典の来賓としての講話で、林先生はこのタイムカプセルの由来を話し始めます。
それはまさに戦争に突入していく時代に短い人生を生き抜いた、林先生の同級生たちの物語でした。志願して海軍の飛行練習生(予科練)となった松田長次郎(俊一郎の叔父)、学校一の秀才で医者を志す坂口順平、少し頭が弱いが純粋でみなに好かれた鈴木寛太。炭屋の息子で妹思いの成田三吉、そして体が弱いが本を読むことが大好きな林健一の5人の物語です
、敬愛する小学校時代の担任、中川先生の提案で、小学校を卒業した2年後の50年前、桜山小学校創立50周年記念式典の日にこのタイムカプセルを埋めたのでした。カプセルの中には将来の夢を綴ったそれぞれの綴り方(作文)と成績表が入っていました。
中川先生に促され、みなは自分の将来の夢を語り合います。順平の医者になる夢、炭屋を継ぐ三吉は綴り方に綴ったとおりの夢ですが、長次郎は鍛冶屋の跡取りではなく、飛行学校への入学を希望するようになっていました。
頭が弱い寛太の夢は50年後もずっとみなの友だちでいることでしたし、体が弱い健一は、友だちの記録係となることを宣言します。そして中川先生と健一たちは50年後の桜山小学校百周年記念式典の日にここに集い、タイムカプセルを掘り出すことを誓い合ったのでした。
そして約束の桜山小学校創立百周年記念式典の日、桜の木の下に立ったのは林健一ただひとりだったのでした・・・
MARCYの感じたこと(一部ネタバレあり)
林健一先生が語る物語は、戦争を知らない生徒たちにも深い感銘を与えます。友たちの記録係を辞任した林健一は、戦後の混乱の中でも戦死した友たちの物語を必死で追い求めました。そう、先生の同級生たちは一人残らず戦死したのです。(ネタバレになってしまいますね)
MARCYの父は「MARCYの自分史BLOG第1回」でも書きましたが、沖縄戦を那覇無線局の局員として、体験しました。そして13名いた局員は父を含めて2名しか生き残らなかったのです。父は死ぬまで、同僚2人の遺骨を収集できなかったことを気に掛けていました。
そして毎年6月には必ず沖縄戦最後の地摩文仁にある「逓信の碑」へお参りすることを欠かしませんでした。父の凄絶な体験をMARCYは高校生の時に初めて知ったのですが、それは父が自ら語ってくれたのではありませんでした。
旧逓信省時代から戦後の郵政省、そしてNTTへと連綿と続く職員と職員OBの機関紙に掲載された父の手記を読むことによって知ることができたのです。あまりにつらい体験は時に人の口を閉ざします。父は乞われて手記の執筆を決意したのでした。
林健一も母校の生徒たちにある決意を持って、ひとりとして返らなかった友たちの物語を語ったのだと思います。健一が講話の最後に生徒たちに語り掛けた言葉を抜粋して引用します。
本日お集まりの在校生の皆さん、そして若い卒業生の皆さん、どうかお友だちを大切にしてください。私は皆さん方がうらやましくて仕方がありません。たくさんの同級生に囲まれているのですから。生まれた時代が違っていれば、私も今日の式典を同級生とともに特別の楽しみで迎えられたでしょう。
皆さん方は、亡くなった私の同級生たちが夢見た豊かで平和な未来に生きています。どうか遠くに旅してみてください。いろんな国を見てください。いろんな街を歩いてください。いろんな人と出会ってください。
そして必ずこの故郷に帰ってきてください。故郷はいつでも、いつまでもみなさんの帰りを待っていてくれます。
「遠い約束」はフィクションですが、室積さんの御父上の実体験も含む多くの方の実話を参考にして書かれた物語だそうです。MARCYも読みながら父の姿を思いうかべずにはいられませんでした。
東京地下鉄劇場の舞台は全国の小中学校を巡回しているのですね。沖縄にも来て欲しい。ぜひ見てみたいものです。室積さん沖縄公演お願いします。
室積さん自身も実際に戦争を体験された世代ではありません。しかし、「遠い約束」は室積さんが、戦争のない平和な世界を何よりも愛する強い気持ちから生まれた小説だと思います。世代を超えて読む価値のある珠玉の短編だとMARCYは感じました。おすすめです。
こんな人におすすめ
「記念試合」を読んで感動した人
旧姓高校生たちへのノスタルジーと、戦争に翻弄された運命を描いた「記念試合」を読んで感動を覚えた人には絶対のおすすめです。室積さんの平和を希求するスタンスは、常に一貫していると思いますが、「遠い約束」は「記念試合」に並ぶ必読の書ですね。
室積光さんの別の一面を知りたい人
この「MARCYの乱読日誌」で以前に紹介した「都立水商」シリーズや「最強の内閣」シリーズなど室積さんには、捧腹絶倒間違いなしのエンタメ小説が数多くあります。しかしこの「遠い約束」と「記念試合」は、まったく肌合いの違う小説です。
室積さんの別の一面を知りたい人に、おすすめします。エンターティメント作家だと思っていた室積さんの真摯な一面が感じ取れると思いますよ。けっして損はしないMARCYのおすすめです。
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