2011年に80歳で亡くなった日本SF草創期の巨人、小松左京さんの「日本沈没」。なんと出版されたのは1973年ですから今から46年前で、400万部を超える大ベストセラーになりました。MARCYは当時高校2年制だったと思いますが、初めて読んだときの衝撃は今でも鮮明に覚えています。
そんな古い作品が3度目の映像化(ネット・フリックスでアニメ化)されるというので、再読してみました。10年ぶりくらいかな。
映画化は2回されていて、最初の映画は1973年。藤岡弘と石田あゆみが印象深かったですね。ただ、このころはCGもない時代で、このスケールの大きな小説を映画化するには、特撮が少し残念な感じを持ったことを覚えています。
2回目の映画化は、2006年で草なぎ剛が深海潜水艇しんかいのパイロットである小野寺役。恋人の玲子役が柴崎コウでした。この映画、監督が特撮の名手である樋口真嗣監督で、MARCYもすごく感動した記憶があります。
印象的だったのは、草なぎ演じる小野寺の相棒パイロット結城役の及川光博(ミッチー)の意外なカッコよさ。必見ですよ。この映画では原作と違って日本列島は完全に沈没することなく助かります。感動のラストシーンも必見ですね。
2本の映画のうち、1973年版はアマゾン・プライムで見れますが、2006年版は残念ながらアマゾンでもU-NEXTでも見れないみたいですね。ツタヤで借りるしかないかな。
さて、MARCYは小学校5年の頃からSFを読み始めましたが、当初はフレドリック・ブラウンやアーサー・C・クラークをはじめとする欧米のSFに夢中でしたが、徐々に日本のSFにシフトしていきました。
日本SFの草創期の巨人たち、星新一、小松左京、筒井康隆、光瀬龍、眉村卓、少し遅れて半村良や山田正紀、平井和正などの小説に夢中になったのです。また、マンガでは萩尾望都の「ポーの一族」や竹宮恵子の「地球へ」などもむさぼり読んでいました。
当時の日本SFのレベルは、欧米のSFに比べても格段に高いレベルにあったとMARCYは思います。例えば光瀬龍の「宇宙年代記」のシリーズに出てくるサイボーグたちは、人間ではなくなった悲しみを既に持っていました。
ハリウッドの映画ではきんきんらきんのスペースオペラ的SFで超人的なあつかいだったサイボーグたちの、人間でなくなった悲哀を既にテーマにしていたのです。ハリウッドの映画でこのてのテーマが出てくるのは「ブレードランナー」や「ロボコップ」まで待たねばならなかったのに。
その中で小松左京さんの小説は、ハードSFとして群を抜いていたと思います。彼は地球や人類を何度も破滅させています。「復活の日」では細菌兵器の漏出から南極に暮らす1万人以外の全人類が滅亡。「日本アパッチ族」では貧困から食鉄人となった日本アパッチ族によって日本国が滅亡。そして「さよならジュピター」ではなんと木星を爆破していますね。
そしてこの「日本沈没」では、日本という国土が消滅してしまいます。小松左京さんの小説のすごいところは、すばらしく博識な知識から繰り出される科学的な理論から構築される、とてつもなくスケールの大きな虚構です。
日本沈没では、当時としては最新の理論であったプレートテクニクス理論(マントル対流による地殻の流動化理論)を駆使して、日本列島が余さず沈没してしまうという信じがたい嘘を、あたかも「本当にあるかもしれない」と読者に信じさせてしまいます。
今回読み返してみて、さすがにコンピュータの記録媒体が紙テープであったり、映像記録が16ミリフィルムであったり、若干古さを感じさせる部分もありますが、全体的には現代の読者が読んでも、まったくそん色のない小説です。
それどころか、AIを思わせる描写があったり、3Dディスプレイが登場したり、著者の先見の明に驚嘆すること必至ですよ。だからこそ、3度目の映像化が企画されるんでしょうね。まだ読んだこともない方もそういえば昔読んだことあったっけと言う方もぜひ再読してみてはいかがでしょうか?小学館文庫で上下巻で出ています。
日本沈没では、いち早く沈没の危機を察知した科学者の田所博士が登場しますが、物語のラストに近い所での博士のセリフを紹介します。
おかしな話でしょう。-本当を言えば・・・・私は日本人全部にこう叫び、訴えたかったのです。・・・・みんな、日本が・・・・私たちのこの島が、国土が・・・・破壊され、沈み、ほろびるのだ。日本人はみんな、おれたちの愛するこの島といっしょに死んでくれ。・・・・今でも、そうやったらよかったと思うことがあります。なぜといって・・・・海外へ逃れて、これから日本人が・・・・味わわねばならない、辛酸のことを考えると・・・
小松左京さんは、日本沈没を語る時に、日本を沈めることを書きたかったのではなくて、日本と言う国土を失った日本人を書きたかったのだといいました。サイエンス・フィクションではなくて、シュミレーション・フィクションだとも言いました。
日本沈没の末尾には第一部完と記されています。その後、長い間第2部は書かれませんでしたが、2006年に谷甲州さんの助力を得て「日本沈没第2部」が出版されました。ここで念願の日本と言う国土を失った日本人の姿が描かれたのです。当時既に、75歳だった小松左京さんの執念ともいえる作品ですね。こちらも小学館文庫で読めますので、興味のある方はどうぞ。
日本沈没は、1974年の星雲賞(日本SF大賞)の長編賞を受賞していますが、この年の短編賞は筒井康隆さんの「日本以外全部沈没」です。スラプスティック小説、パロディSFの旗手だった筒井さんの「日本以外全部沈没」は、まさに捧腹絶倒の短編小説。小松左京さんは、
9年がかりで描いた長編がパロデイ短編と並ぶとはあまりにも不公平な・・・
と言って笑ったといいますが、小松さんと筒井さんはとても親しい間柄だったので、これは冗談でしょうね。ともあれこの短編も傑作ですので、是非読んでください。笑えます。
「日本以外全部沈没」も2006年に映画化されています。
村野武範さんの馬鹿首相ぶりの怪演や、藤岡弘さんの友情出演などとにかく原作に勝る馬鹿馬鹿しさで捧腹絶倒間違いなし。こちらもレンタルしかないみたいですが、MARCYのお薦めです。
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