前田建設ファンタジー営業部1「マジンガーZ地下格納庫篇」前田建設工業株式会社著(幻冬舎文庫)空想世界の建築物を真面目に積算する熱き男たちの物語!!

前田建設 SF

こんばんわMARCYです。
ひさびさの乱読日誌ですが、今回は「前田建設ファンタジー営業部1」です!!MARCYが持ってる文庫本は平成24年発行の初版なんですが、初めて読んだときの興奮は今でも鮮烈におぼえています。

その「前田建設ファンタジー営業部」が、なんと、なんと、実写で映画化されるというのです!!いやあ、期待しますね、わくわくしますねということで再読してみました。MARCYは2巻持っていますが今回ご紹介するのは、第1巻の「マジンガーZ地下格納庫篇」です。

マジンガーZと聞くと胸が熱くなるのはMARCYだけじゃないですよね。ある年代以上の人にはあの水木一郎さんが歌った主題歌とともに、オープニング映像が目に浮かぶんじゃないでしょうか?ユーチューブで探してみたらありました!!

いやあ、とても48年前のアニメとはおもえないかっこよさ!!2年前に公開された「劇場版マジンガーZ INFINITY」はMARCY見てないけれども、やっぱりオリジナルはいい!!

ちょっと本題からずれて熱くなってしまいましたが、「前田建設ファンタジー営業部」紹介していきます。

前田建設ファンタジー営業部の略歴

幻冬舎文庫の解説から引用します。

もとはといえば、これは前田建設の公式ウェブサイトで立ち上った企画。同サイトの説明を引用すると

「ファンタジー営業部」は、アニメ、マンガ、ゲームといった空想世界に存在する、特徴ある建造物を当社が本当に受注し現状の技術および材料で建設するとしたらどうなるか、について工期、工費を含め原則月1回の連載形式で公開するコンテンツです。

2003年2月に最初の連載を開始しました。
前田建設は「環境経営NO.1と言われる建設会社」を目指し、地球も大切なステークホルダーと考え、お客様やエンドユーザー、地域社会の方たちも含めすべてから最も信頼される企業でありたいと思っております。

信頼を得るために大切なのは透明性。この「ファンタジー営業部」も、建設業に全く興味のない方々に楽しくかつわかりやすく建設会社の仕事をわかっていただきたいという想いから始まった「透明性向上プロジェクト」の1つと言えます。

前田建設工業ファンタジー営業部1のあらすじ(ネタバレなし)

2003年2月のある日

前田建設ファンタジー営業部A部長の机の上で電話が鳴りだしました。この電話はふつうの電話ではありません。前田建設ファンタジー営業部が誇る「空想世界対話装置」だったのです。

そして空想世界対話装置に入った電話は、あの鉄の城マジンガーZを擁する光子力研究所の弓教授からだったのです。そしてファンタジー営業部が依頼されたのは、マジンガーZ格納庫の建設見積もりでした。

ファンタジー営業部の活動はこの1本の電話から始まります。そして、実際にファンタジー営業部の5名のメンバーが動き出すのですが、これがまた実に真面目に仕事するんですよ。社内向けの営業情報速報を見てください。笑えるくらい大真面目なんです。

工事仕様書
出典:幻冬舎文庫「前田建設ファンタジー営業部1」33Pより

そして次に彼らが何をしたか・・・なんとマジンガーZ全放送分(92話)のビデオを取り寄せ視聴することでした。マジンガーZの格納庫の工事仕様を決めるためにはまず図面を作成しなければならないのですが、その仕様を映像の中から読み取ろうとしたのですが。

そこからが彼らの苦労の始まりでした。なんと映像を精査するうちに、放送回によって格納庫の大きさが違っていることがわかったのです。真面目な建設会社の社員として5名は悩みますが、けっして暗くなるようなことはありません。

C主任 なんにせよ、画面に映るものが毎回まちまちじゃ何造っていいか分かりませんよ。どの回の状態を再現させるべきなのか、それをまず決めましょう。

B主任 いらんこと言うようやけど、マジンガーZがせり上がる時間も毎回異なっとるよ。

C主任 映像の中では常に主観が伴った表現になってますから、「時間も空間もその時の状態によって体感されるものに違いがある」という解釈になると思います。これを統一できる見解にまとめることから始めましょう。

うーん、なんと前向きな会話。ファンタジー営業部というのは、会社のイメージ戦略でしょうし、マジンガーZの格納庫なんて実在しないことはあたりまえなんですけど、でも彼らは実際にこの工事を現実として施工するために、行動していくのです。

それから彼らは、社内各部署の専門家たちにアドバイスを求めます。前田建設は中堅のゼネコンなのですが、設計の専門家、土木工事の専門家、建設機械の専門家などエキスパートが多数存在します。

土木設計の専門家であるE部長に、大深度の立坑を掘削するためのアドバイスを求めに行ったB主任とC主任。その時の会話がこれ。E部長からコスト削減につながる画期的なアイデアが。

E部長 ところでさっきから思ってるんだけど、マジンガーZそのものは建設機械に使えないの?

C主任 そんな。人が乗って作業に使う人型ロボットが出てくるアニメもありますけど、マジンガーZはあくまでも戦闘を目的に作られてますから、それは無理じゃないですか。

B主任 なんでー、それええんちゃう?発破使って掘ることも考えたら、ミサイルで掘っても。

~中 略~

E部長 せっかくあるから使えるかと思っただけなんだけど。駄目なんだね。

C主任 一応、戦闘配備されてるものですから、みだりに出動すると周囲の不安をいたずらにあおることになりますし。第一、用途外使用は安全第一に反しますよ。

E部長 はははは・・・それはそうだったね。

笑いをとってるのは確かなんですが、E部長もC主任も大真面目なんですよね。B主任だけはちょっと悪乗り気味ですが。それからも彼らは社内だけではなく、社外の会社にも協力を求めながら、ひたすら仕様をかため、実際の工事ができるレベルまで設計を、そして積算の精度を高めていくのです。

そしてその精緻で地道な作業に取り組む彼らの姿勢が実を結びます。最終的な彼らがはじき出した見積もりは?

さあ、映画を見る前に読んでみて損はないですよ。余裕があれば「前田建設ファンタジー営業部2 銀河鉄道999 高架橋篇」「前田建設ファンタジー営業部NEO」もどうぞ。

MARCYの感じたこと

著者略歴で紹介した前田建設ファンタジー営業設立の宣言、とても熱い宣言ですね。でも「透明性向上プロジェクト」って言葉にMARCYはひっかかるものがありました。そこで2003年に何があったかを調べてみると、ははあとうなづける新聞記事が出てきました。

それは2003年の2月1日付信濃毎日新聞の記事なのですが、前田建設工業、フジタ、北野建設のJVが、浅川ダム本体工事の入札で談合を行ったと長野県から認定されたというものです。2003年当時の長野知事といえばあの田中康夫知事ですよね。

前田建設は「状況証拠だけで談合と認定されることは断固許容できない」と猛反発したとあります。MARCYも通信工事の会社で15年間、営業として勤務したことがありましたので、談合が勉強会と呼ばれてある意味あたりまえだった時代を経験しています。

なのでこの談合報道が、本当かウソかということにはあまり興味がありません。またあの当時の談合が一概に悪いことだったとも思っていません。こんなこと言ったら怒られるかもしれませんね。でもあの頃の営業はみな必死でした。

逆にいうと田中知事のパフォーマンスだったのかもしれないとは思いますが。田中知事といえば作家から参議院、そして浅川ダムの建設中止を旗印に長野知事に当選したある意味センセーショナルな政治家でしたから。

しかし、この時に前田建設工業は、健全な危機意識をもったんだと思います。このままでは、建設業界はたちゆかないという危機感です。だから「透明性向上プロジェクト」という名前のさまざまな施策に取り組み、その中から生まれてきたのが「ファンタジー営業部」だったのではないでしょうか?

前田建設工業の取り組みは、古い体質だと言われた当時の建設業界の中で、画期的な取り組みだったことは間違いありません。1991年に発刊されたウルトラマン研究序説という本があります。

ウルトラマン研究序説表紙

MARCYも読みましたが、この本では若手の研究者たちが、真面目にウルトラマンと怪獣たちの闘いの後処理や化学特捜隊の設備のあり方を真剣に論じていたのです。例をあげるとウルトラマンが倒した怪獣の死体の処理義務は、国にあるのかそれとも地方自治体にあるのか、あるいはウルトラマンが破壊したビルは天災として保険の対象になるのか・・・etc.

架空の物語をあたかも現実のこととして捉えるこの本の手法は、まさに画期的なもので、その後「ゴジラ研究序説」や多くの亜流本を生み出しました。前田建設ファンタジー営業部は、少し時期がずれますが、その系譜を継ぐものだと言えるのではないでしょうか?

MARCYは思います。人は時に、損得を抜きにした一円も特にならないことに夢中になれます。前田建設ファンタジー営業部の取組は、もしかしたら談合事件のダーティなイメージから、脱却するための必死のそして駄目元でヤケクソな打開策だったのかもしれません。

しかし、それに取り組んだ人たちの真剣さが、いつか多くの人の共感を呼ぶ優れたコンテンツとなっていったのではないでしょうか?この本は、言ってみれば前田建設工業という一企業のプロモーション戦略のすぎません。

しかし、そのコンテンツとしても面白さやアイデアの奇抜さが評価され、2005年の第36回星雲賞(日本SF大賞)ノンフィクション部門賞を受賞したのです。この結果、そのころ不人気だった建設業界の就職戦線で前田建設への応募者が激増したという逸話も残っています。

そしてそれから20年近くたった今、この本は映画化されることになりました。

時に人が熱くなる一円の得にもならないことに真剣に取組むことの貴さや面白さ。前田建設ファンタジー営業部の挑戦が時代を超えた共感を呼んでいるのかもしれないですね。

こんな人におすすめ

映画を見るのが待ちきれない人

「読んでから見るか、見てから読むか」往年の角川映画のキャッチコピーです。あなたはどちらのタイプでしょうか?MARCYは前者。読んでから見る方ですね。というか原作に興味が持てない映画は見ないタイプです。

1月31日に公開されるまでまだ少し時間がありますから、MARCYのように”読んでから見る”タイプの方には一読をおすすめします。面白さはMARCYが保証しますよ。

マジンガーZが好きな人

年代にもよるでしょうがマジンガーZのファンの方にはおすすめです。MARCYの年代の方にはたまらない魅力がある本だと思います。なんといってもマジンガーZは日本アニメ界に輝く金字塔的作品ですしね。

特に基本形態では飛行できなかったマジンガーZが、非行型の機械獣に対抗するために、光子力研究所が満を持して開発したジェットスクランダーを装備するシーンは、そのストーリー展開のリアルさに驚いたものでした。

このリアルさの追求は今までのアニメにはなかった特筆すべき点だと思います。名作デビルマンで人類を滅ぼしてしまった永井豪さんの面目躍如といったところでしょうか。このリアルさはMARCYには平成ガメラシリーズの監督、金子修介さんに受けつがれたと思われます。

マジンガーZが好きな人には絶対に面白い。MARCYのおすすめです。

 

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