講談社ノベルズから先月発売されたQEDシリーズの最新作「憂曇華の時」を我慢できずに買ってしまいました。基本的に貧乏性(マジで貧乏ですが)のMARCYは、本を買うときはほぼ100%文庫で買います。
新書やノベルズましてやハードカバーの単行本は、よっぽどのことが無いと買いません。つまり高田崇史さんのQEDシリーズは、MARCYには最新作となると一刻も早く手に取りたいシリーズなんですね。
このQEDシリーズはカテゴリーで分類するとミステリーとなるのでしょうが、これも悩ましいところです。ある意味歴史小説、あるいは伝奇、もしかしたらホラーの要素も多分にあわせ持った、とても不思議な魅力をもったシリーズなのです。
もちろん、こんなことはQEDを既読のファンの方には、釈迦に説法、自明の理ですから、前作「白山の頻闇」からまる2年の間、新作を待ちわびた方はすぐにでも読みましょう。今回の舞台は、安曇野で、QEDシリーズでは定番の神社巡りは、穂高神社、大王神社、川会神社etc.
おなじみの桑原崇と棚旗奈々のコンビにこれもおなじみの小松崎が絡んで、殺人事件と歴史を結び付ける事件の謎を解いていきます。今回は大和朝廷との戦いに敗れ、九州から安曇野に逃げ延びた隼人の謎が、テーマになっています。
QEDシリーズのファンの方には、ここまでの紹介で充分だともうのですが、まだ読んだことのない方にも、MARCYは魅力あふれるこのシリーズを是非読んで欲しいと思います。でも、1998年に出版されたシリーズ第1作である「百人一首の呪」から数えると「憂曇華の時」は、なんと21作目!!
前回紹介した米澤穂信さんの古典部シリーズ(全6巻)や室積光さんの「最強の内閣」や「都立水商」のように2巻のシリーズなら、是非1巻目から読みましょう!!とお薦めするのですが、21巻目となると簡単ではないですよね・・・
QEDシリーズの特徴は、薬剤師でありながら趣味は寺社巡りと墓参り。一風変わった主人公の桑原崇(通称タタル)が、その驚異的な博識でもって、現実に起きる殺人事件と歴史的な謎の関係を解きほぐし、解決に導いていくことです。
特にMARCYが魅力的だと思うのは高田史観とも言うべき、表側から見た日本史ではなく、虐げられたもの、服ろわぬものの視点から語られる歴史の面白さです。MARYは、もともと隠された歴史、滅ぼされたもの、まつろわぬもの、虐げられたものの歴史や物語にとても共感を覚えます。
QEDシリーズの作者である高田崇史さんの歴史観は、梅原猛氏の怨霊史観にも相通ずる、まさに朝廷に滅ぼされたり、征服されたり、虐げられてきたものたちへの深い愛情と洞察が、その根底にあります。
タタルこと桑原崇が、ことあるごとに口に出す言葉
歴史とは勝者の歴史である
が、このシリーズのコンセプトを理解する非常に重要なキーワードなんですね。QEDシリーズを読んでいると、私たちが何の疑問もなく行っている慣習やしきたりそして儀式などが、まさに時の権力者(朝廷)から巧妙に仕組まれた、差別と搾取の象徴であることが、よくわかります。
一例を挙げると、天皇家の祖である天照大神、素戔嗚尊、月読尊、そればかりか創世の神である伊弉諾・伊弉冉の神までが、怨霊であるというにわかには信じがたい話が、タタルの膨大な知識と現地でのフィールドワークによって検証されていきます。
その謎解きの過程はまさに一気読み必至で、実はこのシリーズの最大の読みどころと言っていいと思います。そのわくわく感に比べると、現実の殺人事件などは言い方は悪いですが、MARCYにとってはある意味おまけのようなものですね。
もちろん、高田さんの絶妙なストーリー展開で、歴史の謎解きと現実の謎解きは、自然にリンクしています。それが従来の歴史ミステリーとは、一線を画した高い評価を受けている理由なのですが、MARCYには、このシリーズは真の日本史を学ぶ歴史の教科書と言っても過言ではありません。
さて、是非読んで欲しいQEDシリーズなのですが、さすがに21冊はきついなと感じる方も多いと思います。MARCYとしては、読んで損はないよ!!と言いたいところですが、百歩譲って、じゃあどうするかというと・・・
うーん、全21冊でQEDシリーズの本筋である”まつろわぬもの””虐げられたもの”の謎解きを追った巻は、第6巻の「竹取伝説」第9巻「鬼の城伝説」第11巻「神器封殺」第12巻「怨霊将門」第13巻「河童伝説」第15巻「諏訪の神霊」第16巻「出雲伸伝説」第17巻「伊勢の燭光」の8冊といったところでしょうか。
実はシリーズは「伊勢の燭光」で一旦完結しています。そして、朝廷と朝廷に敗れた者たちの隠された歴史の系譜は、この8冊を先ず読めば”高田史観”の全体図が、見えてくると言ってもいいかもしれませんね。
QEDシリーズに先ずは触れてみたいという方は、是非この8冊を手に取ってみてください。そしてQEDの魅力が理解出来たら、他の巻も読んでくださいね。タタルと奈々の個人的な関係の進展も楽しみになってくるはずですよ。
MARCYとしては、最新作のこの21巻目でもまだタタルと奈々が結ばれていなくて、奈々がかわいそうになってしまいました。タタルの鈍感さは筆舌に尽くしがたいですね。
では、シリーズの省エネ読破のための最初の巻はこちら、第6巻の「竹取伝説」です。最後に実はこのシリーズは全く映像化されていないんですね。テーマ的に難しいのかなとも思うのですが、MARCYとしては是非映像化して欲しい作品です。
カテゴリ『ミステリー』他の投稿記事を見る