不発弾 相場英雄著(新潮文庫)巨大企業の粉飾決算を暴く 警視庁捜査二課ナンバー”三知”の最新作

不発弾表紙 ミステリー

こんばんわ、MARCYです。お正月も2日目。MARCYは比較的のんびりした正月を過ごしていて、相変わらず小説を読んでいます。今回は、以前に紹介した「トップリーグ」の著者、相場英雄さんの文庫最新作「不発弾」を紹介します。

「不発弾」は、普通に考えると相場英雄さんが、警視庁捜査二課、詐欺や汚職の知能犯を扱う通称ナンバーと呼ばれる部署、その中の第三知能犯係、”三知”の活躍を描いたナンバーシリーズの最新作に位置付けるべきなのでしょうね。

ただ、もしかしたら「不発弾」はナンバーシリーズの体裁を取りながらもっと別の大きなテーマを相場さんが描こうとした小説なのではないかとMARCYは思いました。

ナンバーシリーズは「ナンバー」、「トラップ」、「リバース」と続きますが、主人公は三知の真藤係長(警部)を筆頭に、ベテラン捜査員の大岩、清野、そして新人の西澤などのメンバーが、企業の詐欺や行政や政界の絡む汚職事件を追うドラマです。

捜査二課の捜査は、強行犯(殺人や強盗)事件で、ゼロから犯人をあぶりだしていく捜査一課とは根本的に違います。その特徴は目星をつけたターゲットの銀行口座や現金受け渡しの流れを徹底した保秘捜査で洗う、面識捜査であるということです。つまり二課ナンバーのターゲットはあらかじめ決まっているんですね。

捜査二課を主人公にした警察小説は珍しく、相場英雄さんのナンバーシリーズは、その綿密な取材に基づく圧倒的な迫力と、時に実在の事件をモデルにしたと思われるリアリズムで、独自の世界を構築しています。

相場英雄さんはナンバーシリーズや、「震える牛」「ガラパゴス」の別シリーズで、食肉偽装事件だったり、3.11以降の東北地方を舞台にした詐欺事件であったり、実際にあった事件をモデルにしたテーマで企業や政界、行政の告発としか思えない本当にリアルな物語を書いてきました。

ときには、その筆致はあまりにリアルに過ぎて、相場さんの身に危険が及ぶのではないかと心配になるほどです。そこには作家になる前に現役の新聞記者であった相場さんの、現代の日本社会の政治や行政の腐敗や、企業の背信などの社会的な不正義に対する強烈な怒りが背景にあるのです。

前置きが長くなりましたが、「不発弾」は1980年代から90年代に掛けてのバブル期から連綿と受け継がれてきた企業の負の歴史が、描かれています。バブルの財テクに踊り、天国から地獄へと突き落とされた巨大企業の先送りされた負債。それが不発弾なのです。

「不発弾」では過去ナンバーシリーズにも登場した、キャリア警察官の小堀管理官が、指揮を執り、巨大電機メーカーである三田電機の不適切会計が、実は粉飾決算ではないかとの見立てによる、捜査を決意することから物語が始まります。

しかし、真藤係長(病死)も大岩(定年)も清野も西澤も登場しません。過去3作に共通する登場人物は主人公の小堀管理官だけなんですね。正当なナンバーシリーズの最新作とは言えないかもとMARCYが感じる理由は、ここにあるのかもしれませんね。

三田電機のモデルは明らかに東芝ですし、芦原総理はいわずもがなの安倍総理大臣。作中に出てくる芦原総理の経済政策、アシノミクスはアベノミクスです。

「不発弾」のラストはネタバレになるのでここでは書きませんが、東芝の他にも、読めば「ああ、あの企業か」とすぐわかる、バブルがはじけた後の証券会社や銀行の破綻。飲料メーカーの不正経理事件など、リアリティにあふれた物語は、ノンフィクションかと見まがうほどですよ。

相場さんの社会的な不正義に対する強烈な怒りが、実在の人物や企業を容易に類推させる描写を一切躊躇しない、自らの身の危険をかえりみない信念を感じて、読む側も鳥肌がたつような錯覚を覚えるほどです。

この「不発弾」が明らかに東芝を告発する意図を持っていたことを、日経ビジネスの小笠原記者と対談したWeb記事がありますのでご紹介します。(2017年3月29日)

「不発弾」を告発した人々は報われたのか?

 

当時、日経ビジネスも東芝の「不適切会計」というオブラートに包んだ表現に納得せず、事実上の粉飾決算であるとの確信をもって、取材を重ねていました。その結果として出版された日経ビジネスの「東芝 粉飾の原点」も併せて読めばより理解が深まるのではないでしょうか?MARCYもまだ読んでいないので、機会を見つけて読んでみたいと思っています。

「不発弾」は、wowowでドラマ化されました。現在はwowowオンラインの配信で見ることが出来ます。

 

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